いまも、君を想う

 納豆、豆腐、厚揚げ、がんもどき……とくに豆腐屋で売っているものが大好きで、いまも朝、ほとんど毎日、納豆と豆腐の味噌汁は欠かさない。幸い、歩いて五分ほどのところに、いい豆腐屋があり、朝、ここで豆腐を買うのは楽しい日課になっている。

 家内が亡くなって二ヶ月ほど経った夏のある日、この店に行くと、おかみさんに「最近、奥さんを見ないけど」と聞かれた。「六月に亡くなりました」と言うと、おかみさんはびっくりした。家内はよくここで豆腐を買っていて親しく話をしていたという。

 おかみさんは、頭にかぶっていた手拭いをとって深々と頭を下げてくれた。私の知らなかった家内がいる。近所の人に親しく記憶されている。そのことがうれしかった。

出版社新潮文庫
発行年2012年

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です